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36 朝日連峰を堪能したのはどっち?

(前回から続く)以東岳にはこれまで4回登っている。3回のテント縦走と、11月上旬の新雪を踏んでの大鳥池からの周回である。最後に登ったのは、3回目のテント縦走の時だから、なんと1994年以来30年ぶりの以東岳だった。

 早朝の以東岳山頂からの眺望を期待していたものの、残念ながら山頂に達する前にガスで覆われてしまった。半袖短パンのいつもの夏山スタイルだと、少し寒いくらいだ。

 しばらくすると、以東小屋に泊まっていた男性が現れた。昨日の以東小屋には7人が泊まったと言う。大鳥池は、小屋に一人、キャンプ場に私一人だったのに、以東小屋に大勢の登山者が泊まっていたことに驚いた。

 その男性がオツボ峰方面に下ると、続けて単独の男性が二人登ってきた。一人の男性は数リットルのザックのトレラン姿だった。下山後にネットにアップされた記録を見ると、日暮沢小屋から竜門山に登って以東岳を往復、さらに大朝日岳に登って日暮沢に日帰りで下山していた。

 一方Sさんの弟さんらは、「朝日屋、以東小屋、竜門小屋、朝日鉱泉の4泊5日の山行だった」と、後日Sさんが教えてくれた。どちらも以東岳〜大朝日岳の朝日連峰を縦走した山行である。

「時間の制約がある中で、できるだけ多くの山を歩きたい」という登山者の気持ちはわからないわけではない。だが、「距離÷時間」の少ない歩き方が山を楽しむだけではなく、より堪能できると思いながら若い頃から登山を続けてきた。初日のテントを張り終えてから過ごした大鳥池は、私にそんなことを改めて教えてくれた時間だった。


「スタイリッシュなやり方では真実の山とむきあえない」(角幡唯介著『地図なき山』)