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11 北限に生きるタブノキのしたたかさ

 山形大学の野外調査で、山形県に生育するタブノキは種子散布当年と翌年に発芽が分かれることが知られていた。タブノキは日本では、南西諸島から青森県まで南北に広く分布しており、南の地方では夏に種子が熟すため、落下した種子は当年に発芽する。しかし、北限に近くなるほど夏から秋かけて種子が熟すため、遅く落下した種子は翌年に発芽が持ち越されるのだろう。そこで、実際に種子を蒔いて確認することにした。

 三面川河口右岸のタブノキ林から約10日おきに3回、落下したばかりの新鮮な種子を拾ってきて、果肉を洗い流してポットに蒔いた。すると早く蒔いた種子ほど当年に発芽する割合が高く、遅く蒔いた種子ほど翌年に発芽する割合が高くなった。

 そして、翌年の秋にタブノキの高さを測ったところ、播種当年に発芽したタブノキは翌年に発芽したタブノキよりも大きかった。当年に発芽したタブノキの方が、生育期間が長いわけだから当然である。

 そこで、次の年も同じ試験を繰り返した。ところが、その年は初冬に霜が降り、発芽したタブノキの地上部がほとんど枯れてしまった。地下部は生きているので、完全に枯死したわけではなかったが、翌年は不格好な樹形で再生した。反対に、翌年発芽したタブノキは順調に生育した。

 北海道のシラカンバも同じように発芽が2年に分かれ、冬の死亡率が低い場合は当年発芽の個体が、冬の死亡率が高い場合は翌年発芽の個体が生存に有利になるという。北限に近い村上市のタブノキも同じように、発芽を2年に分けることで冬の被害に備えているのかもしれない。

 海岸線に近いコナラ林では林床にタブノキ稚樹が生えている。