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35 偶然の出会い

 朝日連峰北部に位置する以東岳(1171.9m)は、村上市街から見える形の良い山で、我が家の窓から見える一番高い山でもある。その以東岳に久しぶりに登ることにした。

 泡滝ダムを午前6時に歩き始め、冷水沢にかかる吊橋を渡り終えた辺りで3人パーティに追いついた。ふだん山では自分から話しかけないようにしているのに、なぜかこの時は「どこから来ましたか?」と声をかけてしまった。何か予感がしたのかもしれない。

「神奈川からです」と先頭を歩いていた男性が答えたので、「私は地元ではありませんが、新潟県の村上です」と返すと、「私は胎内市出身です」と答えたのである。それから少し会話をし、先に大鳥池に向かった。

「どうも胎内市のSさんに顔が似ている。しかも声まで似ている。絶対にSさんと血がつながっている人に違いない……」そう考えながら、大鳥池に至るジグザクの道を歩いた。

 大鳥池に着き、キャンプ場でテントを張り終えると、3人がベンチで休んでいた。

 そこで、男性に「Sさんですか?」と直接名前を尋ねると、驚いた顔をして「そうです。弟です」と答えたのである。弟さんは3年前のリベンジで、今日は以東小屋に泊まって、朝日連峰を縦走すると言う。

 大鳥池は2000年10月に化穴山に登って以来、24年ぶりだった。3人パーティを見送った後で、かつて訪れたことがある三角池や東沢を散策した。それから、ベンチに座って大鳥池を眺めながら午後の時間を過ごした。3人パーティ以降は大鳥池で誰にも会わなかった。(次回に続く)