新規サイト001


5 オオバクロモジの香り

 2001年になり、高坪山に荒島城コースが開設された情報を入手した。そこで、荒島城コースの登山口を探し出し、虚空蔵峰(521m)を往復した。高坪山はそれまで若い細いブナが多い山だと思っていたが、直径50センチメートル前後の太いブナがあり驚いた。

 何度目かの虚空蔵山荘宿泊の翌日、一緒に飲んだ仲間は昼まで山荘でまったりしていると言うので、一人で高坪山に登ることにした。すると、道路の反対側にあるトイレから出てきて女性に「高坪山に登るのなら一緒に行きませんか」と声をかけられた。

 「ええ、いいですよ」と答えると、女性は先になって歩き出した。年齢は十歳くらい上だろう。しかし、やや急な登山道をものすごいスピードで登っていく。

 蔵王集落からの登山道と合流する地点でやっと女性が立ち止まった。普段はご主人と一緒に山に登っているのだが、最近ご主人は腰痛なので一人で山登りに来たと言う。

 虚空蔵峰まで来ると、「こちらのコースを歩いたことがあるのなら、案内してくれませんか」と女性が荒島城コースを指さした。

 後ろになった女性は、今年登った山のことや、ブナやクマなどについて、登りと違って積極的に話しかけてきた。そこで、オオバクロモジの枝を折り、女性に渡した。

 「素敵な香りがしますね」

 岩船地方山岳遭難救助訓練で、「生木でもよく燃える樹種」と教えてもらっていたが、よい香りがすることは知らなかったようだ。

 車道に下りてからは横に並びながら歩いた。女性の手には、ご主人に持って帰るのだろうか、私が渡したオオバクロモジの枝が握りしめられていた。