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1 標識飲み込むブナ

 1987年4月、村上市に暮らし始めて最初に登った山が鷲ケ巣山(1093.2m)だった。当時は現在の縄文の里の場所に三面発電事務所があり、そのグランド裏から登山道を歩き始めた。

 鷲ケ巣山に登るには、前ノ岳と中ノ岳の二つのピークを越えなければならない。登山口からの登りの高低差を合計すると、山頂の標高よりも高くなる。

 その年は体調が悪かったこともあり、山頂まで5時間近くかかったと記憶している。山頂には誰もいなくて、朝日連峰から飯豊連峰の眺望を独り占めできたが、あまりにも辛く、それからしばらく鷲ケ巣山にもう一度登ろうという気持ちになれなかった。

 久しぶりに鷲ケ巣山に登ってみようと思うようになったのは、20年後のことだった。当時職場に鷲ケ巣山登山口近くの集落出身の女性が勤めていた。彼女は小学校の学校登山で鷲ケ巣山に登ったと言う。そして、「辛い時や悩んだ時に鷲ケ巣山を眺めると、小学生の時に鷲ケ巣山に登ったことを思い出し、『私はもっと頑張れる』という気持ちになれる」と話してくれた。

 2007年4月下旬、林道ゲート付近に車を止めた。そして、前ノ岳手前の壊れかけている雨量観測所の近くで標識を飲み込んでいるブナを発見したのである。

 標識は雨量観測所に設置してあるものと同じ約30センチメートル四方の大きさで、まだ飲み込まれた標識が四角形だとわかる状態だった。念のため、20年前のネガを確認したが、このブナの写真は撮っていなかった。

 その後、2014年に登った時には標識の形は円に近い状態になっていた。2020年にはさらに円は小さくなり、5年後には完全にブナに飲み込まれるだろう。

 まだ四角い標識がわかる(2007年4月29日撮影)