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9 植栽木だった粟島のブナ

 粟島で蛾の調査をしていた人たちは、粟島に分布していないブナに固有なブナアオシャチホコなどの蛾が数種類採集されることに疑問をいだいていた。そのため、粟島の小柴山山頂にある灯台の光に誘われて、本州の蛾が粟島まで飛来するのではないかと考えていた。しかし、粟島でブナが発見されたことから、その疑問は解決した。

 2005年11月、粟島に分布する1本のブナの遺伝子を解析するために、北海道からKさんが村上市にやって来た。子供の文化祭で小学校を訪れていた私は、Kさんから連絡が来て村上駅前の食堂に向かった。

 Kさんとはテレマークスキー仲間で、スキー場でのレースの他、バックカントリースキーも楽しんだことがある。新潟県内の山では、巻機山、守門岳、浅草岳を一緒に滑っている。食事を終えたKさんを臥牛山のブナ林に案内した後で、岩船港まで送った。

 粟島でブナのサンプリングを終えたKさんから届いたメールに驚いた。帰りのフェリーに乗り込んだKさんを、お世話になった粟島浦村職員が追いかけてきた。そして、「あのブナは土地所有者のお祖父さんが植えたもので、県道開設工事から逃れた1本のブナだ」と聞かされたのである。

 こうして、粟島で採集されるブナに固有な蛾の理由はさらに謎が深まることになってしまった。しかし、生物が分布していないことを証明することは難しい。実際に私は粟島の植物リストにないハウチワカエデを釜谷集落の森林で発見している。まだまだ粟島には発見されていない植物、昆虫などが生育している可能性を秘めている。