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27 世に出たシシノクラのブナ

 「蒲萄山地で大きなブナのあがりこを発見した」と山仲間の集まりで報告したところ、Sさんから「奥胎内にも大きなあがりこがある」と教えていただいた。そこで、2016年4月上旬、Sさんから奥胎内のあがりこを案内してもらうことにした。

 冬期間閉鎖されている道路を1時間ほど歩き、急な斜面に付けられた歩道を登るとすぐに立派なあがりこがあった。さらに奥にはもっと太いあがりこがあった。

 「これは、あがりこ大王よりもすごい!」と思わず叫んだところ、「高桑さんも同じことを言っていた」とSさんは答えた。高桑信一さんは、「渓の語り部」の異名を持つ秋田県出身の有名な登山家である。その高桑さんが言うのだから、間違いなく「あがりこ大王よりもすごい」あがりこである。

 Sさんはこのあがりこブナを奥胎内の観光スポットのひとつにしようと、ブナ巨木に関する学習会を市役所に持ち掛けた。市役所職員は「学習会を企画しても、人が集まらない」と消極的だったが、Sさんの呼びかけもあり約80人が学習会に集まった。

 講師に依頼された私は、当時雑誌に山と森のコラムを連載していた。その6回目が「雪上伐採されたブナの巨木」だったので、学習会の資料にできたのもタイミングが良かった。

 シシノクラのブナは、その後歩道や看板を整備し、奥胎内の観光スポットとして多くの人が訪れることになった。しかし、私が発見した「あがりこ姫」は未だにほとんどの人に知られず、静かに立ち尽くしたままでいる。