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8 粟島に生える1本のブナ
村上に暮らし始めた1987年4月に鷲ケ巣山(1093.2m)と光兎山(966.5m)に登ったので、5月上旬には粟島に渡ってみることにした。粟島は新潟県北部に位置する周囲23キロメートルの小さな島で、最高地点の小柴山(265.6m)山頂には一等三角点がある。
内浦港でフェリーを降り、県道を釜谷集落に向かって歩いた。峠の背中平からコンクリートの歩道が小柴山山頂まで続いている。山頂の一等三角点に乗って写真を撮り、背中平に戻り釜谷キャンプ場まで下った。
釜谷キャンプ場は椎名誠さんら「怪しい探検隊」が何度もキャンプをした場所だ。トイレと沢の水場があるだけの無料キャンプ場である。ゴールデンウイークの次の土曜日だったので、たった一人のキャンプ場で日本海に沈む夕日を眺めた。
翌日は、時計回りに粟島の北側を歩いて内浦港に戻った。粟島へ行った目的の一つはブナを探すことだった。村上市の臥牛山(134.9m)には登山口の標高20mからブナが生育しているので、粟島にもブナが分布しているかもしれないと考えたからだ。しかし、ブナは発見できなかった。
ところが、翌1988年に粟島でブナが発見されたのである。そこで1989年7月にブナの生育している場所を確認したところ、背中平のやや手前の県道脇で、道路からわずか10メートルくらいの距離だった。ブナは新潟県北の低地では、4月上旬から中旬にかけて開葉する。もし前年に5月上旬ではなく、4月に粟島を訪れていたなら、他の落葉広葉樹に先駆けて、いち早く開葉するブナに気づいたかもしれなかった。
*現在、釜谷キャンプ場は使用料が必要なようです。
丸い樹冠がブナ(1989年7月2日撮影)