すべての山好き、本好きに贈る
書き下ろしエッセイの饗宴
ブナの森の癒し、清冽な水、山里の暮らし、岩魚や山菜
豊饒なる森と水が醸し出す、香気あふれる叙情。
高桑信一編:達人の山旅2『森と水の恵み』(みすず書房)
定価(本体2000円+税)
本書を編むにあたって心がけたのは登山者の視点を捨て去ることだった。そこには登山という行為を基軸としながら、自然との共存をわが事のように慈しむ生がある。ひとは自然が産み落とした申し子なのである。
深い森が与えてくれた慰藉がある。ほんとうの自然に向き合おうと、山深い里に住まいを移した不自由な暮らしがある。心ならずも障害を得た子どもへの揺るぎない愛がある。けっして逃避ではなく、生きんがための雪山への彷徨がある。そして、消え行く山里の暮らしへの哀惜もまた。
登山という領域に終始しながらも、山は主体ではなく、日々を暮らす者たちが生を取り戻すための舞台なのであった。
ここに編まれたのは森と水への渇仰を綴った十六の愛であり、巻末の池田知沙子さんを除いて、ほかはすべて編者の求めに応じて書き下ろされたアンソロジーである。
本書に収められた小編の数々から、森と水が醸しだす叙情に充ちた香気を味わってもらえたら、編者として望外のよろこびである。
目次
遠藤 ケイ 豪雪の山暮らしと、水源の岩魚、筒蛙のことなど
服部文祥 高い山から深い山へ
深野稔生 栗駒 山日記
立松和平 雨の赤城山
佐伯邦夫 弥太蔵谷から音谷
本図一統 黒部、剣大滝を登る
手嶋 亨 南海に浮かぶ森と水の島
瀬畑雄三 イワナ群れなすブナの森に遊ぶ
西澤信雄 森の恵みの今昔
高桑信一 早春の山里、会津
武田 宏 ふるさとのブナの森
若林岩雄 息子と歩く里山
根深 誠 生滅流転の山や川
亀山東剛 侮恨の森
細川 剛 雨の降るブナの森
池田知沙子 ウラシラカミ
志水哲也編:達人の山旅1:『山と私の対話』もよろしく