スギ害虫の離島定着の陰に−ガマズミ
新潟県北部に面積約10平方キロメートルの小さな島があります。飯豊連峰から見ると佐渡島が意外と大きいので、この粟島を佐渡島と勘違いする登山者が多くいます。最も近い本州の山北町からは直線距離で19キロ離れており、岩船港から普通船で1時間半、高速船だと1時間弱で渡ることができます。
粟島に近い村上市に暮らしはじめて3年目の1989年に、粟島で集中的にカミキリムシの分布調査を行いました。当時、粟島では35種のカミキリムシが確認されていましたが、山形県の飛島に多産する種の記録がないことなどから、調べる余地は十分にありました。しかも、現在では夏休み期間中に普通線が二往復するだけなのですが、当時は6、7月の土日にも二往復していたので、日帰りでも普通船を使って粟島で約6時間、カミキリムシを採集することができたのです。
5月には、タニウツギの花からセスジヒメハナカミキリ、広葉樹の枝からシナノクロフカミキリなどが得られました。6月に入るとガマズミが咲き出しました。そしてガマズミの花上からセスジヒメハナカミキリに混じってスギノアカネトラカミキリが採集されたのです。スギノアカネトラカミキリは粟島初記録でした。
スギノアカネトラカミキリはスギカミキリと並ぶスギやヒノキの材質劣化害虫です。幼虫が枯れ枝から樹幹に侵入し、死節の周りを食害して、木材を変色・腐朽させるために、被害が飛び飛びに発生します。そのため、この被害を「トビクサレ」と呼んでいます。
スギノアカネトラカミキリの移動能力は小さく、激害地はスギやヒノキの天然分布域の周辺に多いといわれています。しかしながら、粟島にはもともとスギは分布せず、明治30年代後半から植栽が行われて、現在では森林面積の12%を占めています。したがって、スギが植栽された後に、被害材が本州から持ち込まれたことによって粟島に定着したものと考えられます。
スギノアカネトラカミキリは、成虫として脱出したときにはすでに交尾可能な状態になっています。そして、ガマズミなどに訪花することが雌雄の出合いの場となることや、栄養をとることで生存日数を延ばし、さらに産卵数を増やすことができるのです。このように、スギノアカネトラカミキリが粟島に定着できたのは、スギの植栽だけでなく、ガマズミの存在が大きかったと思われます。