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52 異境・泥又川
仕事をしていた時に付き合いがあったある森林組合に勤めていた男性から突然電話があった。私よりも3歳くらい年上だから、先に仕事はリタイヤしているはずである。男性は 登山の他、渓流釣りやマイタケ採りなどが趣味なので、仕事の合間によく山の話をした。しかし、休日に一緒に山に登ることは一度もなかった。
あるとすれば、飯豊温泉から日帰りで飯豊連峰を一周した時に、大日岳に着いた私と、石転び沢を登って北股岳山頂にいたその男性とアマチュア無線で連絡をしたくらいだ。もう30年くらい前のことである。男性は新潟県内の山の本を読んで、登場人物である私のことを思い出し、「声が聴きたくなった」と言った。
電話は1時間近くにもなった。男性は旧朝日村在住だから、三面の山に詳しかった。何度か焚き火を囲んで宴会をした猿田川の河原に残されていたボートがその男性所有の物だったと電話で初めて知った。
話題は猿田川から泥又川に進んだ。泥又川には猿田川から山越えで何回か入渓した。ルートはふたつある。猿田川の石黒沢出合対岸からとアカイ沢からで、それぞれ泥又川の大明神滝の下流と上流に至るゼンマイ道である。猿田川から山越えして泥又川に入渓すると、なぜか普段の生活からふっと解き放たれたような感覚になるのが不思議だった。大明神滝でのイワナ釣りや焚き火を囲んで河原のごろ寝が記憶に残る。
令和4年8月の豪雨災害で最近は二子島森林公園から朝日スーパーラインは入ることができなくなってしまった。泥又川は文字通り、自分にとって「異境」の地になってしまった。
