マキノスミレ
2000年2月9日。長男の3歳の誕生日だった。
職場の同僚がロビーで2月2日の新聞を見ながら、「こいつ、高校の生物部の後輩なんだよな」と言った。その新聞をのぞき込むと懐かしい名前があった。「姫川原」
その記事は読んでいた。しかし名前まではよく見ていなかった。火事は毎日のように新聞に出ているので、あまり気にとめていなかったのかもしれない。ただ子供を助けに行って煙にまかれた痛ましい事故であったことは記憶に残っていた。
姫川原さんのことは大学の植物愛好会で、一緒に五頭山に登った時のことしか覚えていない。しかし二○年近くも前のそのことを覚えているのは、「姫川原」という自分にとっては珍しい苗字だったからだろう。出湯温泉から五頭山に登りながら、私は姫川原さんにいろいろな植物を教えてもらった。そのなかにマキノスミレがあった。
勤めてからも新潟県内の植物分布図集で姫川原さんのことは知っていた。とくにチシマザサとチマキザサの分布図は姫川原さんの素晴らしい業績だろう。新潟県は貴重な植物研究者を失ってしまった。
スミレは種類が多く、一般には分類が難しい。姫川原さんは、「角田山にはたくさんのスミレが分布している」とも言っていた。春になったらマキノスミレに逢いに五頭山に登ってみようか。姫川原さんのことを思いながら……。
姫川原さん安らかに…
1980年5月11日五頭山三ノ峰