高桑信一著『古道巡礼』東京新聞出版局
本体2000円
奥羽山脈を東西に結んだ交易の道「八十里越」を皮切りに各地のやまに残された十四の径(みち)を、分け入って踏み分けて、紡ぎ出した渾身のルポルタージュ。著者は、登山家でありながら、消えゆく山の仕事や文化の記録を残すルポで独自の境地を切り拓き、最近、とみに脚光を浴びてきた鬼才である。テント、食糧を背負って径を探し求める<巡礼者・高桑>の取材の旅は、TV「情熱大陸」でも取り上げられた。
本書は、山の専門誌『岳人』2001年から4年間にわたって連載され、大好評を博した「道 −その光芒」を加筆、再編集した大作。高桑が辿った足跡を、手作りの地図と大量の写真で追跡、山好きの読者の探索できる編集がなされている。
津軽白神のマタギ道、越後下田の砥石道、白湯山信仰の会津中街道、海と山を結ぶ生命線だった米沢街道大峠の塩の道、一攫千金を夢見た鉱山の光と影が織りなす鈴鹿千草越え・・・。険しい山岳地帯の弱点を突いて続く道を、かつてはゼンマイや炭、塩、鱒を背負った屈強な男たちが往来した。その仕事道の痕跡から、民俗学的においを漂わせる、格調高い高桑文体が、消えゆく男たちの姿を鮮やかに蘇らせてくれる。