高地肺水腫

 

 

高地肺水腫について、私の主治医であった川嶋先生の論文(川嶋 彰・小林俊夫・草間昌三(1987)日本でみられる高地肺水腫.臨床スポーツ医学4628-634)を用いて説明する。

はじめに

 高地という特殊環境下でみられる疾患のなかでも、もっとも重篤なのが高地肺水腫である。その発症機序には不明な点が多く、高地環境への急速な暴露が何故肺水腫を引き起こすのか、未だ明確な結論が得られていない。日本でも中部山岳地帯を中心に年間数例の発症がみられ、死亡例も報告されている。しかしながら早期に適切な治療を行うことにより、速やかに、しかも確実に回復しうるものであるから、山に関する者すべてが、その病像を十分に把握しておく必要がある。 

高地肺水腫の特徴

1 平地では健康な人間が、2700m以上の高地で発症する。(私の経験を加えると、2500m以上で発症すると思う)
2 若年者に発症しやすく、また重篤になりやすい。(論文では、1558歳の発症例を示している。しかし最近の登山者の傾向を考えれば、今後中高年の増加が予想される)
3 繰り返し発症する例がある。(体質的に素因がある。また飲酒も誘因のひとつであると思う。丸山直樹著『死者は還らず』の「ある単独トレッカーの死」を読んで、飲酒はまさに「火に油を注ぐ」結果であったと私も思った)
4 登山経験の有無と無関係である。(論文では、20年以上の登山経験をもつ男性が、44歳の時初めて発症した例が示されている。したがって必ずしも先天的ではない)
5 登山前の体調と無関係ではない。(無理な計画は立てないことである)
6 夏山でも冬山でも発症する。また同じ日に複数例の発症がみられる。(気象も誘因になるらしい)
7 肺水腫ばかりでなく、脳浮腫を伴うことがある。
8 症状の夜間増悪がみられる。(夜中に咳が出たら、危険である) 

高地肺水腫の診断基準

Hultgren,1976
1 安静時呼吸困難、咳などの典型的な症状が、高地到達後に新たに出現する。
2 感染徴候を欠く。
3 チアノーゼを認め、肺にラ音を聴取する。
4 安静臥床および酸素吸入により、症状・所見が急速に改善する。

高地肺水腫に関する書籍

P・ハケット(栗山喬之訳)「高山病 ふせぎ方なおし方」山洋社
JA・ウィルカーソン(赤須孝之訳)「改定新版 登山の医学」東京新聞出版局
文部省「高みへのステップ

恐怖のロッジ立山連峰